【第16回】気のせいではない機能性めっきの巻
- 機能性めっきとよけの職人
ホームページにある「訪問記」の続きがやりたいからとお声が掛かり、工場見学にやってきた。事前にググったりして伊達に勉強などせず、素人のままの目で現場を見て欲しいとのこと。案内いただく開発の榎堀秀和さんには申し訳ないけど、お達しのまま下手な焼き刃は付けぬことにしておじゃました次第。
初めに聞いてみる。「サン工業さんは何屋さんと呼んだらいいんですか」「一言で言ったら金属の表面処理屋さんですか。表面処理という括りのなかで、うちでやっているのはめっき、バリ取り、ショットブラスト、電解研磨、アルマイト、黒染め、マグネシウム化成処理、アルミニウム化成処理といったところです」
すでについて行けない。表面処理は分かる。素材の表面の性質を高めるために何かすることだ。めっきもおおよそ分かる。素材の表面の性質を高めるために、電気の力を使って何かすることだろう、たぶん。バリ取りも分かる。ショットなんたらからはもうお手上げだ。ただアルマイトには聞き覚えがある。やかんや弁当箱にはアルマイトのがあった。
眉間にシワを寄せていたら、榎堀さんが助け舟を出してくれた。
「個々の技術は追々ご説明することとして、ざっくり言えば、表面処理をすることで、付加価値が生まれます。たとえば鉄に亜鉛めっきをすると錆びにくくなります。めっきなどしなくても、錆びないステンレスを使えばいいかと言えば、ステンレスは鉄に比べて値段が高く、加工が難しいという問題があります。そこで鉄にめっきを施すことで、錆びないという機能を、ステンレスより低いコストで提供できます。これが付加価値です」
つまり、サン工業は金属の表面処理で付加価値を生む専門家ということだ。しかもその付加価値は機能性であることもポイントだろう。めっきというと素人は、金めっきのように装飾性のものを思う。しかし、めっきにより元の素材を錆びにくくしたり、固くしたり、滑らかにしたりもできる。こうしたもろもろの顧客ニーズをサン工業では自社技術で満たしている。そして、手がける製品が機能性めっきということは、何らかの機構等の中で何らかの働きをすることも多いから、その多くは装飾品のめっきのように人の目に触れることは少ない。しかし、確かな技術のおかげで顧客が求めたとおりにその部品は機能する。気のせいではない、機能性めっきだ。
いけない。洒落ている場合じゃなかった。ここで一つ疑問が持ち上がる。たとえば、めっきによる加工で、会社はどんな差別化ができるのだろう。めっきという技術自体は昔からあるものだから、何をどうしたら他社と違う付加価値を顧客に提供できるのだろう。「たとえば鉄をめっきする場合、まず表面の油を落とし、次いで錆をとり、いよいよめっきして、最後に水洗いするという基本的な流れは一緒です。ただし、各々の工程をどうやるかに各社のノウハウが詰まっていて、それが完成品の品質を左右します」と榎堀さん。
めっき液を例にとる。どのめっき屋さんもめっき液のメーカーから液を購入するから、これをそのまま使い、他の工程も全く同じならA社もB社も同じものができる。しかし、サン工業では、液の成分を自社分析して、顧客が求める仕様にミートするよう、成分構成を液メーカーにリクエストしている。また例えば、めっきを施すことで元の素材は厚みを増すが、その寸法管理についても徹底的にこだわる。こうして品質を作り込んでいく。
だから、他社でできなかった加工が、この会社に持ち込まれることが度々ある。サン工業では "Yes, I can !"と引き受ける。実際に結果を出せるのは、"Yes, I can !"に技術の裏打ちがあるからだ。この連載ではそのあたりを少しだけ覗いてみたい。
ということで、次回から本格連載である。最初はアルマイトのお話。榎堀さんの「アルマイトはめっきとは逆の加工なんです」との言葉に文系頭はまた混乱する。ほんとにこの先やっていけるか不安になる。でも、アルマイトにもサン工業にしか生めない付加価値がきっとあるのだろう。それは気になる。
実は他にも気になることがこの訪問であった。榎堀さんは現場を案内してくれた折、めっき液のことを一度「汁」と言った。その言葉がなんとも玄人っぽくて好きになったのだ。そんな言葉が他にも飛び出して来やしないかと、次回の訪問を心待ちにしている。
文:宮下武久(フリーライター)
レポーターの私(宮下)とサン工業の開発課榎堀課長