【第18回】「よけの職人・堀本登場 その2」
- 機能性めっきとよけの職人
臆せず質問すると、「おお、ずばりその通りですね!」と榎堀さん。うれしいことを言ってくれる。聞き上手という言葉はあるが、榎堀さんは聞かせ上手だ。聞き手のテンションを操ること自在で、話を聞かせるスキルが高い。
めっき液の中の製品に流れる電気は均一ではなく、製品の端の方が流れやすい。棒磁石を砂鉄の中に置いて、磁界を可視化する実験を思い出してみるといい。磁極のところによりたくさん砂鉄が集まっている。あれと同じだ。
電気がより多く流れるということは、その場所はより多くの金属イオンを集める。したがってめっきも厚くなる。
ミクロン単位の話だが、拡大してみれば製品の端の方がめっきは厚い。つまり、一個の製品の中にめっき厚のばらつきが存在する。
お客様の要求が、例えば「ニッケルめっき5ミクロン」である場合、製品のどの部分でめっき厚を5ミクロンとするか計測する場所をあらかじめ決めておく。そうでないと、めっき後にねじ穴にねじが入らないなど思わぬトラブルがあるからだ。
ものによっては、こうしたばらつきが許されないケースがある。そんなときこそ、この道37年のベテラン堀本さんの出番である。めっきは製品の端や角の方がその他の部分よりつきやすい。ならば、つきやすい場所の電気の流れを制御してやればいい。たとえば、こうした角や端の周辺に物理的な障壁を置いて、めっきがつく量を調節してあげるのだ。これをこの世界で「よけ」と呼ぶ。「よけ」は樹脂の壁を製品の回りに置いてあげたり、電気が最も流れやすい場所の周りに金属のリングを治具としてつけて、こちらへ金属イオンを優先的に誘い込むことで、製品全体のめっき厚をならしてあげたりする。
だが言うは易し。運命の恋に魅入られたもの同士が引き合う力を調整するなんて至難の業だ。開発課長の榎原さんが言う。「何回もやって何回も失敗した人でないとできません」。この大きさのこんな形状の製品だったら、これくらいの太さ大きさのリングをこんなふうにつけたらうまくいく、その答えを導き出すのは経験に基づくノウハウである。堀本さんは持ち込まれた製品を見るなり、その場で手早く針金でよけをつくってみせる。まさに技術とは人に備わるものなのだ。
こうして堀本さんの部署では、よけの治具をつくるまでの仕事を担う。治具ができれば、氏のノウハウは標準化され量産が可能になる。ものづくりの醍醐味を感じと同時に、37年ものベテランともなると、実はめっき液の中で金属イオンがうごめく様子が見えているのではと疑っている。職人とは格好いいものだ。さて、次回こそ本当にアルマイトの話。