【第24回】アルマイトって何だろう その6
- アルマイトってなに?
さてさてアルマイトのお話も佳境に入ってきた。今日は実際の加工工程を見せてもらう。 「生々しい感じで申し訳ないです」と榎堀さん。いやいや素人はその「生々しい」のにそそられるのだ。加工されるアルミは、まず表面を溶かすことできれいにして、均一にアルマイト処理ができるようにする。次に榎堀さんは、棒状のアルミ製品の一部にマスキングテープを巻いたうえで(その部分はアルマイトになってほしくない)、製品を引っかける針金を取り付ける。この何とも言えぬアナログ感がいい。
準備はこれでできたみたい。今日見せてもらうのはシュウ酸アルマイトだから、シュウ酸の溶けた処理層の中に入れてあげる。あの気持ちよさげな流水風呂(「同 その4」参照)で、製品がちょうど肩まで浸かるよう吊す高さを調節するのだが、ここで榎堀さんが使ったのは、どこででも見かける万力だった。やっぱりアナログ。言ってしまうと身も蓋もないが何だか地味かも。いや失礼した。はなはだシブイ。高倉健なみだ。
いよいよ電源を入れる。男の子はこういう瞬間が好きだ。「発進!」とか「行きます!」とか「主砲発射用意!てー!!」とか大好きである。だが、現実とは淡々と進むものである。すぐに劇的な変化があるわけではない。処理層に電気を流すが、最初は弱く、次第に強い電圧をかける。製品表面に酸化皮膜が始めると電気が流れにくくなるからだ(「同 その4」参照)。
「製品の表面をよく見てください。細かい泡が出ていると思います。アルマイト処理が進んでいる証拠です」。おっしゃる通り、製品表面から微細な泡が立ち上っている。静かに、そして着々とアルマイト処理は進んでいるのだ。いやはやシブイ。もうトミー・リー・ジョーンズなみである。こうしてだんだん電圧を上げていって、この製品の場合、液に浸かっていたのは30分ほどだったか。あがったら水洗して、次に湯洗(乾かしやすいから)、コンプレッサーのエアで乾燥させたら、ハイできあがり。
いたってシンプル。めっきやアルマイトといった表面処理は、大げさな装置産業ではない。ラインが1つあれば、多様な製品に対応できる。また、試作用にも高価な金型が必要になるプレス屋さんと違い、針金みたいな手近な材料を工夫して治具をつくれば、すぐにサンプルを用意できる。そこが強みだ。しかしである。「温度、濃度、時間」と呪文のように繰り返すように(「同 その2)参照」)、管理技術が大きくものを言う。この流水風呂のかき混ぜ方にしても、流す電流の波形にしても、細かな設定条件を組み合わせて、その製品にとって最適な解を導き出す。そこがノウハウだ。さて、次回はアルマイトの最終回。製品の評価方法についてのお話です。