【第22回】アルマイトって何だろう その4
- アルマイトってなに?
前回の話で、アルマイトの表面に形成される酸化アルミニウムの膜は電気が流れにくい言った。流れにくいというのは、被膜自体電気は通さないが、その被膜にはナノメーター単位の穴があり、トンネル効果と呼ばれる何やら難しい原理でもって、ようやっと電気が流れていくからだ。だから被膜を厚く硬くしようと思ったら、電圧を高くする。
たとえば、めっきで通常使う電圧が5ボルトだとすると、硫酸アルマイトは30ボルト、シュウ酸アルマイトは70ボルトの電圧が必要になる。電圧が大きくなれば当然電源も大きくなり、大きな電源は値段も高い。しかもシュウ酸アルマイトに使う電気は特殊波形のものなので、余計に電源設備は高価になる。
さて、電圧を高くしてあげるということは、液の温度も上がるということだ。アルマイトを硬くするには、液の温度を下げなくていけないから、一生懸命冷やさなくてはならない。それには大きな冷却装置が必要だ。すると、処理のための電気代に冷やすための電気代が加わり、そのコストはめっきよりずいぶん大きい。ただし、これも以前に話したが液の材料費はアルマイトの方が圧倒的に安価である。
具体的に電圧と温度の条件でアルマイトの硬さはどう変わるのか。装飾用途の通常アルマイトは、15~20ボルトの電圧を用い、液温は20℃、ビッカーズ硬さ(工業材料の硬さを表す尺度)はHV250、硫酸の硬質アルマイトでは、30ボルト、0℃、HV350~400、シュウ酸の硬質アルマイトで、70ボルト、20℃、HV400~450。温度を下げる限界は、硫酸で?5℃、シュウ酸で5~15℃ぐらいまで。これ以上下げると液が結晶化してしまうそうだ。
榎堀さんの案内でアルマイト処理の現場を見せてもらう。「これが処理槽です」そう教えられた中身、硫酸が溶けているという水は何だかぐるぐる動いている。流水風呂と表現したらいいのか。風呂と言っても、液はキンキンに冷えているのだけれど。当然疑問が湧く。「なぜ水を動かす必要があるのか」。そして、榎堀さんは今回も明快に答えてくれる。
「液自体は冷えていますが、アルマイト処理すると製品の周りだけ熱を持ちます。するとせっかくできた被膜が溶け出したり、製品に伝わる電圧が下がったりして、硬い被膜になりません。だから、水を対流させて製品の周囲の熱を逃がしてあげるわけです」
「温度、濃度、時間」を追求するとは前にも書いたが、こんな工夫までしているのかと驚いた。アルマイトにとっては、きっと高級スパリゾートにいる気分だろう。まるで滝川クリステルばりの「お・も・て・な・し」ではないか。