【第28回】硬いめっきの、やわらかなお話 その3
- 硬いめっきの、やわらかなお話
硬質クロムめっきより「硬くて、もっと滑る」表面処理とは?開発課主任の児玉さんは考えた。「ダイヤモンドとか混ぜたら硬くなるかも」。しかもダイヤは潤滑剤代わりに使うくらい滑り性がいい。ではダイヤをどう使うか。周辺技術にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)あるが、装置が高価で、蒸着という手法はコストがかかるように感じた。そんなとき、「ナノダイヤっていう材料があるよ」とヒントを投げてくれたのは川上社長だった。
ナノダイヤは親水性がいいらしい。ならばめっき液とも相性がいいはずだ。まずは無電解ニッケルめっきで試すことにする。ニッケルめっきは他材料と複合しやすいという特徴があるからだ。やってみた。できたようだ。箸にも棒にも掛からないわけじゃない。
折よく国の補助金も受けることができたら、これをナノダイヤ購入の費用に充て、いよいよ硬質クロムめっきに複合することにした。業界の常識では、硬質クロムめっきは混ぜ物がしにくいという。だが自分でやってみなくては分からないではないか。
確かに難しい。きれいにめっきをつけるため、治具を工夫したりと、試行錯誤の繰り返しだった。同じ方法で10回失敗したら、やり方を変えて次の方法にチャレンジした。そうして条件を変えながら、ときに心が折れそうになりながら、1年ほどをかけて、どうやら目指すところのものができあがった。
児玉さんの努力に対し、「どうやら」なんて奥歯に何やら挟まった言い方をするのは、相手がナノダイヤだからナノダ。イヤ洒落てる場合じゃなかった。ナノはマイクロメートルの千分の一、つまりミリメートルの百万分の一と小さい。小さすぎて、本当にめっきに複合されたのか、電子顕微鏡をもってしても見えないのである。サン工業自慢のGD-OES装置を使うと、被膜に炭素がより多く含まれていることは分かる。だが、その炭素がナノダイヤか否かは見た目では分からない。
しかし、児玉さんにとってその画像は、満天の星空に見えた。見えないはずのダイヤの輝きが、遠い遠い銀河の彼方から届く光のように、彼の脳裏には映っていた。
実際のところ、ナノダイヤ複合めっきでは、従来のサージェント浴硬質クロムめっきよりHVの値が1割増の1100になっているのだ。摩擦係数は約半分となり、滑りやすさは2倍を計測した。間違いなくナノダイヤの複合に成功したのである。
2014年6月25日から、東京ビッグサイトにおいて第18回機械要素技術展が開催される。児玉さんが手がけたナノダイヤ複合硬質クロムめっきは、「硬い&滑る」をテーマとするサン工業のブースの目玉の一つだ。ぜひたくさんの方にご来場いただき、そして同社ブースへ足を運んで、実際にその成果に触れていただきたい。
会 期: | 2014年6月25日(水)~6月27日(金) 10:00~18:00 ※最終日27日のみ 17:00終了 |
会 場: | 東京ビッグサイト |
公式HP: | http://www.mtech-tokyo.jp/ |