サン工業株式会社

サン工業訪問記一覧

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【第53回】勝つぞこの戦い、必ずな! 抗ウィルスめっき(2)そのとき歴史が動いた

  • 勝つぞこの戦い、必ずな! 抗ウイルスめっき

サン工業に入社した中田康介さんは、現場研修を終えて品質保証課へ配属された。本人が希望した職種だったが、業務に就いて初めて彼は品証の厳しさを知る。不良対応でお客様から責められる、生産現場からも厳しく言われる。悔しい思いをしたはずだ。小学校の頃習った空手の突きや蹴りが思わず出そうになり、ぐっと奥歯を噛みしめた日もあったかもしれない。伊那の夜の街を漂い、飲み屋を梯子したこともあったかもしれない。でも仕事にやりがいを失うことはなかった。でなけば、そのレスポンスの速さを評価され、アンチコロナプロジェクトリーダーの白羽の矢が立つことはなかったのだから。

新しいめっき技術の開発に臨んだ彼は、20通りのめっき液を試してみる。最も有望だったのがニッケルと酸化チタンの組み合わせだ。試作品ができあがった。しかしここで最初の壁にぶつかる。既に存在していた他社の抗菌めっきと比較すると、中田さんの試作品は抗菌力が弱いのだ。めっき材料の選択を間違えたか。いやこれで良かったはずだ。しかしどうしても期待した結果が出ない。完全に行き詰まった。

こんなときに余談だが、中田さんは愛煙家である。開発課の河合課長も愛煙家である。中田さんにとって人生の先輩でもある河合さんは、「紙巻たばこはこの先絶対にやめろって言われるから」と中田さんの結婚祝いに電子たばこをプレゼントした。自分も経験者なのだ。2人ともお宅では奥様とお子さんを気遣い、家の中では電子たばこも吸わない。

閑話休題。壁にぶつかり悶々とする中田さんを嘲笑うかのように時間ばかりが過ぎた。ある日の午前10時の休憩の折、会社に1箇所だけある喫煙所へ足を運ぶと、河合課長も一服している。プロジェクトリーダーになって以来、中田さんは開発課に籍を置いていたから2人はいつも同室で、河合さんは中田さんが今アンチコロナプロジェクトに関わり、もしかしたら行き詰まっているであろうことも知っていた。中田さんが改めて相談する。今のままでは抗菌力が弱いと。

2本のたばこから青い煙が立ちのぼる。静かに深く肺に入れ、吸ったとき以上にゆっくりと今度は白みを帯びた煙が2人の口と鼻からもれる。そのとき歴史が動いた。

「スペキュラム(銅—スズ合金めっき)はどうだろう?」アドバイスのような独り言のような河合さんの言葉に、中田さんはすぐに反応した。そうか!それならいけるかもしれない。抗ウイルス、抗菌効果だけじゃない。ニッケルフリーで金属アレルギー対策にもなる。さっきまでびくともしなかった壁が、今は一押しで壊せる気がした。

だがこのとき中田さんはまだ知らない。新めっき開発の前途には、あの日松本駅で初めて見た北アルプスのように彼を圧する問題が立ちはだかることを。

*次回「勝つぞこの戦い、必ずな! 抗ウィルスめっき(3)試験結果はまだか!」

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