【第50回】亜鉛めっき 錆びないヒ・ミ・ツ♡ その3
- 亜鉛めっき 錆びないヒ・ミ・ツ
「めっき屋のデフォルト」こと亜鉛めっきの話を続けよう。案内役は開発課の市河さん。「うちで亜鉛めっきと言えば彼」と河合課長が太鼓判を押している。
亜鉛めっきを施した鉄はガルバニック・アクションという、ヒーローの必殺技みたいな作用があるから錆びにくいと前回書いた。亜鉛めっきは耐食性が抜群でコストも小さい。しかもそこへクロメート膜をわずか数ナノほどつけてやると、“めっき界のヒーロー”亜鉛めっきは、さらに強靱な装甲を手に入れる。いかにして?というのが今回の話。
クロメートとはクロムの化合物のこと。クロメート処理とは亜鉛めっきした金属とクロメートを反応させる化成処理のことだった。サン工業でやっているクロメート処理を色で区別すると、①有色(青色)、②ユニクロ、③黄色、④黒色となる。①と②は同じ青色だが、あえて2つに分けている。お客様により仕様書での指定の仕方に違いがあるからだ。サン工業の有色クロメートは、その青さが際立って美しいと評判らしい。ちなみに耐食性の高さは、青(ユニクロ)、黄、黒の順になる。
クロメート処理することで、金属表面には腐食作用に抗う酸化皮膜ができる(不動態化)。しかもクロメート被膜は自己修復性を持った酸化皮膜なのだ。クロメートはつまり、亜鉛めっきの耐食性を一層向上させるだけではない。もしピンホールが開いても自然に塞いでしまう。そんな魔法のような膜が、処理液にザブンと浸けるだけで施せるのだから、もともと優秀な亜鉛めっきと組み合わせない手はない。市河さんも言う。「クロメートって、つくづくスゴいと思います。」亜鉛めっきとクロメートは、もはやセットものだ。しかも相当強力でかなりバリュアブルなセットである。
ただし問題がないわけではない。クロメート処理液にはもともと六価クロムが使われてきたが、こいつが強い毒性を持つのだ。ステンレスが鉄とクロムの合金であることからも分かるように、クロムは単体の金属としてなら極めて錆びにくく無害だ。また、クロム化合物のうち三価クロムなら大丈夫。むしろ人体を構成する必須元素の一つとして、サプリメントの成分に使われるくらい。一方、六価クロムは強い酸化作用を持ち、皮膚や粘膜に付着したまま放置すると皮膚炎や腫瘍の原因になる。
悩ましいのは、クロメート膜としての能力は六価クロムの方が上であること。耐食性も処理のしやすさも、そしてコストでも三価クロムを凌ぐ。サン工業では現在、人も環境も害さない三価クロメートが主力になっているが、お客様のご要望により従来からの六価クロメートも手がける。六価クロムを工場外へ絶対に溶出させない万全な設備を整え、管理を徹底していることに対し、お客様からも地域からも絶対の信頼があるからできる仕事である。