【第37回】銀めっきの秘密 その3
- 銀めっきの秘密
今回は、前々回チラリと触れた「宮川スペシャル」のお話しをするが、その前に開発課からこの春巣立つ白鳥誠さんを紹介しよう。入社5年目の白鳥さんは、製造現場での経験を積むうち営業職を志すようになった。行くライン行くラインで「営業はたいへんだぞ」と脅かされたが、彼の気持ちは揺るがなかった。現場経験の仕上げに開発課で1ヶ月間さまざまな種類のめっきを学んで、いよいよ4月から営業としての第一歩を歩み出す。「製造側の手間と苦労を知る営業として、お客様と実りある交渉がしたい。サン工業のブランドイメージをもっと高めたい」と意気込む。その堅実で丁寧な仕事ぶりは、河合課長をはじめ開発課の全員が太鼓判を押す。プライベートでは、地元野球チームでキャプテンを務める白鳥さん。スポーツ用品のめっきにも関わっていきたいと言う。
全国のお客様、白鳥がお伺いした折りには、どうぞよろしくお願いします。
さて、「宮川スペシャル」である。銀めっきに添加剤としてアンチモンを入れると、すごく硬くなってギランギランに光るが、入れすぎると銀の特性である電気伝導性が低下し、あろうことか硬度も下がる。だから銀めっきのスペシャリスト宮川さんは、アンチモンに変わる別のポケモン、いや違った別の金属を探していた。
見つかったのである。その金属が。それが何かは秘密保持契約上言えぬが、スペシャルぶりはお伝えできる。
宮川さんの初期テーマは、たとえ高温で長時間放置しても、硬度が劣化しない硬質銀めっきの添加剤を見出すことだ。実のところそんな都合のよいものはなかった。だが研究の過程で彼女は面白いデータを得る。劣化の度合はアンチモンと変わらないものの、添加量がずっと少なくて済む金属を発見したのだ。仮にミスターXとしよう。添加量が少なければ、銀の電気伝導性を高く保ったままの硬質銀めっきができる。これは画期的だ。
それでも物事そう易々と進まないのが世の常である。ミスターXは水に溶けにくいという難点があった。濃度が上がらないと硬度も上がらない。共同研究している信州大学や普段からお世話になっているアドバイザーの先生に相談しながら、金属イオンを安定化させる錯化剤を工夫したり、ミスターXを溶かす水のpH値を調整したり。試行錯誤の末できあがった硬質銀めっきを、宮川さんは測定機にかけた。果たして、その銀めっきは硬度が確実に上がっていた。そしてミスターXが確かに入っていた。
「これはやったな」。そのとき彼女は確信した。初期硬度が高く、しかも電導性がよい銀めっき「宮川スペシャル」がついに完成したのである。ただ、ミスターXとアンチモンでは、液中の挙動も違うし、めっきの際かける電気も違うから、その後も宮川さんは量産化に向けたベストな条件づくりに取り組んできた。あとは性能評価を残すのみ。「宮川スペシャル」 coming soon である。