シンプルの正体~ディック・ブルーナのデザイン展
- 密かな楽しみ
ゴールデン・ウィークに松屋銀座に立ち寄ったら「シンプルの正体~ディック・ブルーナのデザイン展」が8Fのイベントスクエアで開催されてましたので寄ってみました。
ディック・ブルーナさんは今年の2月に亡くなっていたのですね。
オランダを代表する絵本作家でグラフィック・デザイナーであった彼の作品は「究極のシンプル」と評されていました。
ブルーナの「シンプルとは?」は公式図録に記されていた下記の言葉で全てが言い表されています。
「シンプル」という言葉には、簡素、単純さ、すなわち飾りや無駄をそぎ落としたさま、という意味があります。シンプルなデザインとは、形や色を単純化し余分な要素をそぎ落とすことで本質を明けらかにするものです。しかし、引き算が過ぎると、味気のない冷たい表現に陥ってしまうこともあります。
ブルーナのデザインからはシンプルだけれども、同時に温かみやユーモアを感じ、1本の線からは色々な表現を読み取ることが出来ます。それはブルーナのデザインが引き算に優れているからだけではありません。楽しさや悲しみ、驚きといった感情が、エッセンスとして加わっているからではないでしょうか。ブルーナはこの人間味を大切にした足し算によって、見る人の想像力をふくらませ、味わい深い豊かな世界に誘うのです。
彼の描いた「ミッフィー」とサンリオの「キャシーちゃん」との類似性が故に訴訟問題になったのが2010年でした。しかし翌2011年に発生した東日本大震災を契機に両者の対応が激変!両者は次のようなコメントを発表しました「サンリオ、ディック・ブルーナは大震災の犠牲者の皆様に深く哀悼の意を表するとともに、被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。このような情況を鑑みメルシスとサンリオは訴訟を行うことにより費やす両社の諸費用をむしろ日本の復旧・復興のために寄付すべきであるという結論に至りました。」とても大人の素晴らしい判断だったと思います。
こんな可愛いキャラクター同士の生みの親による醜い争いだけは見たくはありませんものね。
会場で放映されていた彼の仕事の光景に驚かされました。彼はあの単純に見えるキャラクターの線を一筆で一気に描くのではなく、ゆっくりと、筆で点を重ねるように丁寧に描いていたのです。
線には人間性が現れるとブルーナさんは考えていたようで、「究極のシンプル」な画像だけれど、そこにあるふんわりした心地よさは彼の人間としての温かさがにじみ出たものなのでした。