杉本博司~ロスト・ヒューマン展
- 密かな楽しみ
東京恵比寿にあるTOP東京都写真美術館で開催されていた杉本博司氏の「ロスト・ヒューマン展」を観てきました。
写真家の杉本博司氏のことは、最近まで全く知りませんでした。彼の代表作の一つである「海景」シリーズの中の一点を何処かで観たのが、最初の接点だったと思います。ただ、その時は全く興味の欄外で単なる海の写真として、何の変哲もない、何も感じない写真として通り過ぎてしまったような気がします。
昨年、森美術館で開催された「シンプルなかたち展」に彼の作品が一点出展されており、何故かその海の映像に引き込まれてしまいました。単なる大きな海と地平線と空がモノクロ写真で写されているだけなのに、なんなんだろう?・・この不思議な感覚は?・・と、いつまでも記憶の片隅に引っかかっているのです。
そんな折、原田マハの「異邦人」の、主人公の寝室にあるのがアンセル・アダムスのヨセミテ(多分)の写真と杉本博司の「海景」がさり気なく飾られているくだりに触れたとき、その寝室のしっとりとした光景が目に浮かび、そのような寝室も素敵だな・・との思いをつよくしたものでした。
今回の「ロスト・ヒューマン展」には彼の作品は余り無く、人類と文明の終焉という壮大なテーマの下、様々なインスピレーションを掻き立てるインスタレーションが33のシナリオと共に展示されているのです。
この展示会を観ただけでは、彼の思いと人となりが理解できませんでしたので会場で上映されていたビデオ「はじまりの記憶」を購入して家でじっくり見て、初めて彼の生い立ちを踏まえた考えと今回の展示会の目的が理解出来ました。
私のようなものには、やはり作品だけでなく作者の考えや生い立ち等の知識がないと中々理解できないことが多々あるアートなのでありました。