めっきは結晶性でしょうか?それとも非晶質でしょうか?【FIB(収束イオンビーム加工装置)の活用その4】
- 素材
我々が目にする金属は、一般的には結晶構造を持っていますが、同じ金属でも、めっき皮膜は結晶性でしょうか、それとも非晶質でしょうか?物質が結晶構造を持っているかどうか?その結晶の大きさはどれくらいか?面心立方構造なのか、それとも、六方細密格子なのか?といった詳細は、X線回折装置というものを使用して正確に観測することができます。ただし、X線回折装置では、数値として観察されるのみで、結晶構造をビジュアルでとらえることはできません。
FIB(収束イオンビーム加工装置)はガリウムビームで素材をエッチングして穴を掘っていく微細加工装置ですが、加工面には応力がかからない(砥石で研磨したりして素材が変形しない)ため、素材自身の結晶構造がそのまま観察できることがあります。
また、めっきも金属の皮膜ですので、電気めっきは結晶構造を観察することができます。逆に無電解ニッケルめっきは非晶質(アモルファス)ですので、同じように加工しても結晶構造は観察できないという特徴があります。
下の画像は、SKD材上の無電解ニッケルめっきです。SKD材は熱処理されているため、素材の結晶模様が確認できます。また、無電解ニッケルめっきは非晶質ですが、17,000倍まで拡大すると、微小な模様が確認できますので、やや結晶質を持った中リン無電解ニッケルめっきと推測できます。
次の例は、アルミニウム材料に薄く無電解ニッケル下地めっきを行ったあと、電気ニッケルめっきを行う2層めっき品のザラ(微小な凸)を観察した事例になります。この部分は素材に小さな穴が開いていますので、この穴が要因でザラが発生しているのですが、よく結晶を観察してみると、下地無電解は結晶模様が見えないのですが、穴の部分は少し凸状になっており、その周辺に結晶模様の見える電気ニッケルめっきがついていることが分かります。したがって、このザラは微小な穴に起因するバリのようなものに無電解ニッケルめっきが凸状に析出したことが原因と考えられます。
また、FIBは「加工装置」というだけあって、断面観察を行うだけではなく、写真のように、表面を削りながら様々の形に加工することも可能です。上の写真では、ザラの観察とともに、試験的に約10μmの直方体形状に加工をしてあります。
いままで見てきたように、FIBは、いままで非常に難しかった微小領域での不具合調査や軟質皮膜(黒クロムやすずめっき、軟質金めっき)の断面観察、結晶構造観察、微細加工など、さまざまの用途に応用できる最新加工装置です。あたらしい技術開発や表面処理の不具合調査にぜひお役立てください。