黒色クロムめっきの膜厚はどれくらいでしょうか?【FIB(収束イオンビーム加工装置)の活用その1】
- 黒色メッキ
サン工業では、2021年秋にFIB(収束イオンビーム加工装置)を導入し、皮膜の断面観察をより精密に実施できるようになったため、いくつかの事例を紹介しながら、FIBの特徴や優位性を説明していきたいと思います。
めっきの膜厚について
さて、めっきの膜厚というものは、通常は蛍光X線膜厚計を使用したり、断面をカットして観察したり、測定可能な形状であれば、マイクロメーターを使用して測定することが可能です。
ただし、黒色クロムめっき(黒クロムめっき、黒クロム)は、皮膜自体が金属ではなく酸化物やクロム化合物の集合体であることや比較的柔らかく、埋め込み研磨やマイクロメーターで正確に測定することが難しいめっきでした。
FIB(収束イオンビーム加工装置)とは
FIBは、簡単にいうと、サンプルのごく微小領域(10μm~50μmくらい)にガリウムイオンビームを精密に照射し、ビームの当たっている部分の元素を気化させて除去して穴をあけていく装置になります。やわらかい皮膜であってもFIBでは形状を壊すことなく穴をあけていき、断面を精密に研磨した状態で観察することが可能です。
黒色クロムめっきの場合も、FIBで加工することで下の写真のように断面を観察することができるようになります。めっき断面の表面(上のところ)は、ビームによって、表面がダレてしまわないように、あらかじめ、カーボンの薄膜を部分的に蒸着してあります。
黒色クロムめっきの断面
黒色クロムめっきは、めっきメーカーによって、「光沢のあるもの」「無光沢マット状」の主に2種類の外観のめっきが実用化されていますが、サン工業で行っている黒クロムめっきは「無光沢マット状」になります。電子顕微鏡の写真からも表面に微小な凸凹が形成されているのが見て取れると思います。
四角い穴の奥側がめっき断面になります。表面に乗っているのは保護用のカーボン蒸着膜、その下がめっき膜で黒クロムの凸凹でポーラス状になっているのが見て取れます。その下が素材の鉄部分となります。
これをさらに拡大して、測長したものが下の写真になります。
FIBの場合は、素材に対して垂直に四角い穴を掘っていき、断面観察は一般に、サンプルを45度傾けて観察します。よって、上の写真は、斜め45度から見たときに、約0.9μmになっているので、実際の膜厚は、これに√2を掛けて、0.9×1.414=約1.3μmとなります。
黒色クロムは薄くて寸法安定性がよく、それでいて無光沢のため低反射という特徴を持った皮膜として知られていますが、FIBの観察でも1μm程度の薄い皮膜であることを観察することができました。